先日、リサイクルショップに、ほこりを被った西洋人形を売りに行ったものの、買取を拒否された友人からこんな話を聞きました…

 友人が買取を拒否された理由は、ありがちな昭和40年代のガラスケース入り西洋人形で、お店の在庫がだぶついていたためだったのですが、本当はもうひとつ買い取りたくない理由があるのだと、おしゃべりな店員が教えてくれたそうです。

 ここ数年、とある西洋人形に関して、不穏なウワサが流れており、それが事実ならば、持ち込まれた場合、大きな問題になりかねないとのこと。そのため、ウワサの細部に差異があった場合の保険も込めて、現在、一律、西洋人形の買取は拒否しているそうで、それは、こんなウワサだと言います。

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 腰まで伸びた軽くウェーブのかかったの金髪に、磁器のように白い肌、端正な鼻筋と口元、大きく深い青色の目、その目と合わせたかのような青地の布と白いフリルが印象的なドレスを着た女の子。
 その人形は、特徴だけを言葉で列挙すると、目の端をかすめれば、誰もが二度見するような代物なのですが、実際に受ける印象は真逆で、どことなく、いえ、確実に邪な気配をまとっているそうです。

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 あなたが、その人形を目にするのは、帰宅の途中となるはずです。疲れている人の方が、人形もつけ込み易いのかもしれません。さて、人形を認識=人形に見初められた時から、徐々に人形は、あなたの自宅との距離を詰めて来ます。おとついは通勤列車の快速が通過する駅のホーム、昨日は最寄りの駅の階段下、今日は近所のゴミ捨て場、という具合に。

 ここまで来ると、見初められたあなたは、人形の恐怖にあてられ、手近な鈍器を握りしめて、人形に襲いかかります。人形は人形ですから、なすすべもなく壊れてしまい、あなたは恐怖から解放され、生活に平穏が戻ります。何の意味があるのか、と疑問を感じますが、これが確認されている正解の選択であると同時に、これ以外の選択に辿りついた大人はいません。そう、大人は。

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 人形の邪な気配や恐怖が、なぜ子どもに効かないのかは謎ですが、結局は人形もその本質である「おもちゃ」であることから逃れられていないのでしょう。
 A子さん(11歳)は、ある日の夕方、公園のトンネルの中で、その人形を見つけました。ひと目で気に入ったA子さんは、その人形を持って帰りましたが、その夜、A子さんのお家、アパートの4階の部屋から火が出ました。
 A子さんとご両親は何とか逃げ出し、すぐに火も消し止められたため、大きな被害はありませんでした。なお、当然ながら火元は人形で、完全に燃え尽きており、消防も警察も怪訝な顔をするばかり。

 人形から火がでた原因として、その道の識者に聞いたところ、「時間との摩擦熱」が考えられるそうです。つまり、人形は大人に対する時のように、あくまで徐々に自分の速度で距離を詰めたいのですが、子どもはそれを無視して連れ去るため、理想と現実の狭間でこすれて火が出るとのこと。分かるような、分からぬような話です。

 さて、ここから考えるに、この人形に出会った際、「破壊」と「連れ帰り」の他に、もうひとつ選択肢があります。

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 日に日に人形が迫る恐怖と、それを根源とする破壊衝動に耐え、人形が来るがまま、あなたの自宅に迎え入れる。これが第3の選択です。言うは容易いのですが、これまで人形の恐怖に打ち勝った大人はおらず、また、連れ帰りたいという衝動に打ち勝って放置できた理性的な子どももいませんでした。

 ですが、これらのウワサをあらかじめ知り、覚悟のできるあなたならば、人形を自宅に到来させる、もとい、招き入れることができるかもしれません。できたならば、その結果の幸、不幸にかかわらず、あなたはウワサの中に存在を遺すことになるでしょう…

【おしまい】